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【対談】渡邊 道徳(株)テレビ宮崎社長 × 池ノ上 克 宮崎大学長

宮崎大学に期待すること

宮崎大学は平成28年4 月に地域資源創成学部を新設し、教育学部、医学部、工学部、農学部の5学部体制となりました。これまで以上に地域に貢献できる人材を育成し、行政をはじめ、多くの地元企業との連携を進めていこうとしています。
今回は、渡邊道徳(株) テレビ宮崎社長に、宮崎大学に期待する地域貢献、そしてメディアの立場から大学に求める情報発信について、お話をお聞きしました。

池ノ上 克 Ikenoue Tsuyomu
1991年、宮崎医科大学(現宮崎大学医学部)産婦人科教授に就任。周産期死亡率の改善に尽力し、救命救急センターの開設やドクターヘリの運航にも関わった。2015年10 月、宮崎大学長に就任。

渡邊道徳 Watanabe Michinori
1969年、(株) テレビ宮崎入社、2004年、同社代表取締役社長に就任。PHOENIX JAZZ INN(現UMK SEAGAIA Jam Night)やアクサレディスゴルフトーナメント in MIYAZAKI 開催にも尽力している。

社会で活躍できる人材をどう育成するか

池ノ上学長(以下、池ノ上) 本日はお忙しいところ、ありがとうございます。大学の使命として、卒業生がどのように宮崎の地域に貢献するかということがあります。
そこで、はじめに、地域貢献をテーマにお話をうかがいたいと思います。宮崎の企業として、宮崎大学は、もっとこうしてほしい、あるいはやるべきことが残っているといった、叱咤激励の言葉をいただければと思います。

渡邊社長(以下、渡邊) 人は成長し、学習していく中で、一般的常識を身に付けておかなければならないと思いますが、問題は、卒業して社会に入ったときに、その知識がどう生かされるかということだと思います。ほとんどの場合は残念なことですけれども、会社に入って半年、1年で辞める方も本当に多いです。知識があって優秀な方でも、社会での人間関係、コミュニケーションで悩み、リタイアせざるを得ないということがよくあります。そのようなことをある程度、大学時代にも理解させておかなければいけないのではないかと思います。
宮崎大学は今年度、地域資源創成学部を創設されましたが、その学部の先生方で実務経験者は、24名中8名いらっしゃるとお聞きしています。社会についての生の声を聞くこと、もちろん教授陣だけでなく先輩たちが社会に入って、どういうつまずきをしたか、苦悩したか、それをどのようにクリアしたかを知ることが大きな経験になります。
学生は、会社に入ってすぐに順応できないかもしれない。それを会社として教育していかなければならないのですが、数人しか残らないという実態もあります。それでもどちらかというと、女性は強いですね。順応力があります。よく例えて話すのですが、女性はミカンの木、男性は柿の木だと。柿はポキッと折れる、ミカンは折れない。ちょっとしたことで精神的にポキッと折れてしまう。耐える力がなく、挫折してしまう。そうすると何のための教育を受けてきたのかとなってしまう。社会に出て生かす機会を逃してしまいます。

池ノ上 おっしゃる通りですね。競争社会、学生時代の受験勉強を経て大学に入り、それぞれの専門分野の勉強・研究をします。これで4年間が終わりますが、社会に出たら、さまざまな荒波が押し寄せてくる。それに学問研究だけで対応できるかというと、そうではありません。学問の世界では、学術的ディスカッションをして、論理性が展開できれば評価されますが、社会は必ずしもそうではありません。思った通りにいかない場面に遭遇したときに、柿の木のようにポキッと折れてしまう場合もあるでしょう。社会の実態を考慮した教育が必要だと思います。 新学部は社会の実態に即しているというところが強みです。文系でもない理系でもない、理系の技術と知識、文系の論理の建て方、コミュニケーションの取り方、両方の良い面を伸ばすことができると考えています。現在は、高校時代から理系・文系と分かれて学ぶことが多いですが、社会に出れば、その区切りは関係なくなりますから、そこも見直していく必要がありますね。

渡邊 当社は、特に技術分野で新卒者の採用が多いのですが、私が社長になってからは、男性も女性も、まず営業を体験してもらっています。少しでも早く社会になじませる、飛び込ませることが大切だと考えています。特に技術系の仕事は、何か不備があっても、どうにか解決できるものです。社会はそういうことばかりではありません。答えが出ないことがたくさんあります。放送業界では、報道や制作を希望する人が多いのですが、どういう形で報道するかを考えたときに、物事を俯瞰的に見られないといけない。一つの側面からだけでなく、対になる面から見て、俯瞰的考察ができることが大切です。その観点から見ても、まずは営業からスタートするのがいいと考えています。

池ノ上 私ども大学から積極的に情報発信することが、地域の多くの企業との架け橋になると思いますが、大学についてもっと知っていただくためのアドバイスはございますか。

渡邊 あらゆる手段を使ってアナウンスメントされる機会をつくられることだと思います。トップは学長ですので、学長がメッセージを発することが一番だと思います。大学の顔ですから。宮崎大学には、素晴らしい業績を上げている先生方がいらっしゃいます。先日も日本シバh28taidan3の全ゲノム解読に成功というニュースがありましたけれども、これ!と感じる情報は、どんどん発信してください。みんなが理解してくれるだろう、取材に来てもらえるだろうといった待つ姿勢ではなく、能動的に動かないとダメだと思います。「アピールするチャンスをいただきたい」とアナウンスメントしていただければ、メディアとして、それは面白いという動きにつながります。

池ノ上 キラキラと輝く研究者、素晴らしい学生が大勢います。学長室にいるだけでは分かりませんので、学内を動き回っていると、活動がよく見えてきます。最近でいうと、車椅子陸上の選手がおりまして、現在100m 競技で日本ランキング2 ~ 3 位につけているという学生もいるんです。

渡邊 素晴らしいですね。それはアピールしないと、もったいないですよ。まず、情報を提供する機会をつくっていただければ、ニュースでもスポーツコーナーでも、発信する機会は幾らでもあると思います。そして、宮崎大学には海外の留学生が多くいらっしゃいますよね。どのくらいの学生がどの国から来られているか、一般的にはあまり知られていないと思います。実は、タイからの留学生が多いということも、タイに行ったときに始めて知りました。

池ノ上 大学からの広報、まだまだこれからですね。そういう意味では、大学内でまず見つけることをしていかないといけません。じっとしていたのではダメですね。

渡邊 我々も同じです。我々も、行政から流れてくる情報ではなく、記者は自分たちで探して歩かなければいけないのです。営業と同じで、外に出ていろいろな方の話を聞かなければ、何がニュースか分からない。それと同じことですね。ですから、研究の内容や学生さんの生活など、投げかけてアピールしていただければ、できる限りのことをしたいと思います。

"稼げる大学"を目指そう

池ノ上 渡邊社長が、今の宮崎大学に、さらに期待されることは何でしょうか。

渡邊 宮崎大学には"稼げる大学" であってほしいと思うのです。企業の研究開発費は、日本では約12兆6000億円ですが、大学の研究はその0.7%の930 億円程度しかありません。ところが、ドイツは企業6 兆4000 億円に対して、大学の開発費は3.7%の2400 億円ほどあります。それと同時に特許を持っていて、特許料が入るわけです。アメリカの場合でいうと、ノースウェスト大学の収入は約390 億円といいます。日本は京都大学のiPS 細胞関係でも3 億5000 万円ほどです。差がありますね。国からの予算や学生の授業料だけではなく、研究によって自立した収入源を持つことができればと考えます。もちろん企業側も国内の大学を育成する義務があると思います。アメリカはスポーツでも収入を得たり、イギリスは大学が財産を持っていたりします。これから先、特許などで研究開発費を自ら得て、さらに素晴らしい研究に発展できるということをぜひとも目指してほしいと思います。

池ノ上 大学は自分たちの財源を持たないといけないという時代に入り、ようやく制度も確立してきました。国から入る研究費以外に、地域の企業から基金を募ることもできるようになりました。

渡邊 ぜひ、さらに良い研究ができる形で確立していただけるといいと思います。

池ノ上 宮崎大学は2003年に旧宮崎大学と宮崎医科大学が統合し、新宮崎大学が創設された際、「世界を視野に地域から始めよう」というスローガンを立てました。それを目標にしてきましたが、今、国立大学はどういう大学にするのかということを問いかけられています。我々は、地域の活性化のために役に立つ大学であることが第一だと考えています。地域の活性化につながり、地域の皆さま方から「宮崎大学があってよかった」と言っていただける大学であり続けたいと思います。

地域の中での存在感を確立する

渡邊 やはり地域貢献ということでいえば、最初にお話させていただいた人材育成、まずはそこに尽きると思います。若い人たちは、社会で経験を積んでいく中で、自分の入った会社でやりがいを持つことが必要だと思います。自分は何をすべきか、それをどう実現していけばいいか。最終的に必要なのは勇気です。やって当たり前、失敗したら自分の責任です。そこにあえてチャレンジする精神を持つ考え方が必要ではないかと思います。平穏無事にやっていくだけではなく、為すべきこと改善していくべきことを常に考えていかなければ、人間的な進歩も社会的な進歩もありません。ベースとなる学問の基盤の上に、なぜだろう、どう生かすべきだろうという考えに発展させる力が必要だと思います。

池ノ上 研究も同じです。失敗しそうだと考えてしまう研究は、良い研究にならない。それこそ、勇気がないとできません。世界中のネットワークをどんどん宮崎に引っ張ってきて、宮崎を活性化していきたいと思っています。

渡邊 当社がやっていること、スケッチ大会や、JAZZ INN の時代から40年続くJam Night など、私たちがサポートした文化は、世代をまたいでつながっていく。それは企業としてのサスティナビリティー、存続に関わってきます。そこを見据えて、長期的にやっていく必要性、社会的責任が発生します。地域の中での存在感が根付き、信頼していただく。会社がどういう存在としてあるのかという意味を揺るぎないものにします。大学の存在もそうであると思います。

池ノ上 じーんとくるお話です。テレビ宮崎独自で制作されているテレビ番組は、キー局でつくっているものとクオリティは変わらない、いい勝負をしていると思います。大学も同じです。研究のクオリティは、地方でも変わらないと言われるような大学にしていかなければと思いますし、地方だから、都会だからという時代ではないと思います。研究のクオリティにはもちろん自信を持っていますが、発信がうまくいっていないと感じています。もっと発信に力を入れていくことが、地域での存在感につながるということを常に意識していこうと思います。

対談後も談笑は続きました。

池ノ上 本日、渡邊社長は、自社で企画されたコンサート列車ジャズトレインの車内でジャズを楽しまれたのですよね。多くの文化事業で地域貢献され、h28taidan4県民に対する文化の橋渡しとなっているなと感じます。私は公益財団法人宮崎県立芸術劇場の評議員をしていますが、毎年行われる国際音楽祭は、芸術性が高く、音楽に親しむ素晴らしい機会です。しかし行政の評価は、まず観客動員数でランクが付いてしまいます。それだけで評価するのではなく、素晴らしい演奏を県民が聴くことができる、参加することができるという側面からの評価をしっかりしておかないと、単に数で見るということでは、芸術文化の在り方は評価できないと思います。

渡邊 私も宮崎県立芸術劇場の代表理事をしておりますが、法人に変わるときに、当時の財産を県に返還してほしいという話がありました。法人に変われば県の予算として手がつけられなくなってしまうからです。そのとき、ある国の例を出して、知事たちに申し上げたのですが、大不況になったとき、すべての国家予算を削減する中で、唯一、増やした予算がある。それは芸術のための予算です。社会が情緒不安定になるときこそ、芸術が大切であるということです。私たち大人が芸術文化の果たす意味を考え、次世代へとつなげていく必要がありますね。

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